下水道水増し事件・住民監査請求から訴訟へ

                     住 民 監 査 請 求
                       「岡山市職員措置請求書」

私たちは,平成12年7月7日,「下水道水増し」事件について,住民監査請求を行いました。
ご存じのとおり,岡山市は,下水道の利用人口について29年間にわたって国に水増しの報告をしていた結果,余分に受け取っていた交付税19億円余りだけでなく,「加算金」として21億円余りをも国に支払わなければならなかったのです。
この加算金は,市の職員が市に損害を与えたことになるはずです。それなのに市は,責任の追求を一切しようとしませんでした。このままでは,それは市の損害,つまりは私たち市民全体の損害になってしまいます。そこで私たちは監査請求を行い,21億円余りの加算金について,「岡山市は責任者に損害賠償を求める権利がある。市長はその権利を行使しようとしないので,これを監査し,市長の怠慢を改めさせ、市の損害をうめあわせる措置を講じてほしい」
と要求しました。(末尾に,監査請求書の本文全文を掲載します。)

意見陳述
7月17日,監査請求についての意見陳述が行われました。私たちは,監査請求の趣旨を説明し,「意見陳述要旨」を,情報公開請求によって入手した大量の証拠文書とともに提出しました。

監査請求の棄却
9月1日,監査委員は私たちの監査請求を棄却しました。その理由は長文にわたりますが,要するに,
1.特定の市職員に故意又は重大な過失があったと認定できない。
2.今回ほどの多額の損害が発生することが予見できたとは考えられない。
長年のことで,関係した職員が多数で,60日の監査期間では個別の職員の法的責任を判断することは不可能である。」というのです!
この理由は,大変に奇妙なものです。

第1に,「市役所全体としては「わざとウソの報告をした」といえるが,職員一人一人はそうではない」などという不思議な理屈が,通るものなのでしょうか?

第2に,「バレたら罰金(加算金というのは,罰金みたいなものなのです)をくらう」ということはわかっていたでしょうに,「まさかこんなに沢山くらうとは思わなかった」などという言い訳が通用するものなのでしょうか?
市民に21億円の負担がかかっているというのに,この漫才のギャグのような言いぐさは一体何でしょう?

第3に,(呆れてあいた口がふさがらないのですが)この「下水道水増し」事件は,発覚してから住民監査請求まで400日以上,自治大臣から41億円の支払を命令されてからでも300日近くたっています。監査委員は,住民の請求がなくても,市の行政の不正や怠慢を正すのが本来の仕事です。彼らは,300日近くも何もせずに手をこまねいていて,住民から請求があったら「60日では調査もできない」などと言える立場なのでしょうか?

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訴 訟 の 提 起
11月2日,私たちは,現・前両市長をはじめとする50人を相手に,岡山市 に総額17億2693万8000円の損害を賠償するよう求める裁判をおこし ました。
50人の被告は,現市長・前市長のほか,歴代の助役,財政局・下水道局の局 長・部長・担当課長などです。助役や局長の多くは,自治省や建設省などの中 央官庁から岡山市に出向してきていた人々です

第1回の口頭弁論期日は、平成13年3月21日に予定されています。市長をはじめとするお役人の方々が,どんな答弁をするのかは,まだわかりません。私たちはこの裁判を,岡山市の21世紀の冒頭を飾るにふさわしい,意義のあるものにしたいと願っています。これは,わたしたちが岡山市の監査委員あてに提出した,意見書の全文です。ただし,個人のプライバシーに配慮して,個人名の部分はわからなくしてあります。

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                        住民監査請求の意見陳述要旨

1.自治大臣は,平成11年9月16日,岡山市に対し,同市が昭和45年度から平成10年度までの間に,「普通交付税の算定基礎資料を国に提出するにあたり,そのうちの下水道現在排水人口の数値について『資料に作為を加え,虚偽の記載』をしていた」という理由で,29ケ年度分の不当に交付を受けた普通交付税19億8481万7000円と,加算金21億2248万7000円,合計41億0730万4000円の返還を命じた。 岡山市は同年9月28日この全額を国に対して支払った。

2.普通交付税にかかる基準財政需要額の算定基礎となる下水道の排水人口については,下水道排水地域の住民登録人口及び外国人登録人口に基づいて算定資料に記載すべきことと定められている。ところが岡山市は,昭和45年度から平成10年度までの間,上記規定に従わず,下水道排水地域の昼間人口など,上記規定による人口よりも大幅に多い虚偽の数値を算定資料に記載していた。この事実が平成11年5月に公になった結果,前記自治大臣の命令に至ったものである。

3.地方交付税法第19条第4項・5項は,地方交付税の算定に用いる資料に「作為を加え,又は虚偽の記載をすることによって,不当に交付税の交付を受けた場合」には,直ちに超過額を返還させること,それに年10.95 %の加算金が付加されることを定めている。他方,同法条第1項は,数値に「錯誤があった」場合には,過去5ケ年度分の超過額の実額を返還させるものと定めている。

4.岡山市は当初,「水増し」は錯誤,つまり過失によるものだと主張してい
た。しかし,この「水増し」が錯誤,つまり過失によって生じたものでないことは,以下に述べる事実から明白である。

5.基準財政需要額の算定の基礎数値として,下水道の排水人口についての記載がなされるメカニズムは,以下のとおりである。(1)X年度の下水道の排水人口は,(X+1)年度に行われる公共施設状況調査によって国(下水道の場合,建設省)に報告される。市役所内部では・財政局財政課から,各部局の窓口となる課(下水道局の場合は総務課)を通じて,担当課(下水道の排水人口については,平成8年度まで計画課,平成9年度以降は調整課)に対して調査表への記載依頼がなされる。

(以下,下水道の排水人口の場合に即して説明する。)
・ 下水道局総務課は,(2)このX年度の公共施設状況調査に記載された下水道の排水人口の数値が,(X+2)年度の普通交付税に係る基準財政需要額の算定基礎として用いられる。毎年度,県を通じて市町村に交付される「基準財政需要額基礎数値チェック要領」のうち,下水道の排水人口の項目には,「チェック不要(○○年度公共施設状況調査)」と明記されている。(甲第31号証の1) 岡山市においては,普通交付税にかかる基準財政需要額の算定基礎となる数値の報告は財政局財政課が行うが,財政課では前年度の公共施設状況調査において下水道局が報告した数値をそのまま記載するのである。

6.ところで,前記公共施設状況調査の際に財政局財政課が下水道局に交付する書面には,当該数値が地方交付税の算定基礎として用いられることが明記されている。
そして,あわせて配付される調査表の記載要領には,下水道の現在排水人口の数値は,下水道排水地域の住民登録人口・外国人登録人口に基づいて記載すべきことが明記されている。従って,公共施設状況調査の際の下水道現在排水人口の記入方法には錯誤を生じる余地はなく,岡山市において行っていた,昼間人口その他異なった算定方法を用いて下水道現在排水人口を「算定」する方法は,明らかに作為によったものであり,当該異なる方法によって「算定」された数値は虚偽のものである。

7.岡山市が自治大臣から支払を命じられた前記加算金21億2248万7,000円は,上述のとおり,岡山市が普通交付税に係る基準財政需要額の算定基礎となる下水道現在排水人口の数値に作為を加えて虚偽の記載をしたことに基づくものである。従って,岡山市が国に対して前記加算金の支払義務を負ったことは,岡山市職員の「作為による虚偽記載」行為の直接の結果であるから,この行為を行った職員,及び当該職員に対する監督義務を怠ってこれを看過した職員は,それぞれの故意または過失によって岡山市に前記加算金の支払い義務を負うに至らせたものである。これら職員の行為は,岡山市に対する不法行為に該当し,岡山市はこれによって前記加算金額に相当する損害を被ったものである。従って,岡山市は,これら職員に対して,当該職員の関与した加算金部分について,損害賠償請求権を有している。そして,当該損害賠償請求権は,地方自治法第242条第1項にいう普通地方公共団体の財産に該当する。

8.岡山市職員らは,平成11年度9月定例岡山市議会の本会議や総務委員会・建設委員会などで,「財政局財政課,下水道局総務課等は,下水道の排水人口が地方交付税と関係があることを知っていたが,下水道局調整課(計画課)はこれを知らなかった。財政局や下水道局総務課は,調整課(計画課)が報告する排水人口に水増しがあることを知らなかった」旨の答弁をしている。しかし以下に述べる諸事実より,この答弁は虚偽であることが明らかである。

(1)岡山市が従来公表していた下水道普及率は,建設省の定める方式(住民登録人口等の定住人口をもとに計算する)に則っていなかったものであるが,岡山市が公表していた下水道関係の数値の虚偽は単に普及率だけではなく,下水道の排水人口についても,市の刊行物において,定住人口によらない水増しされた数値を公表していた。従って,少なくとも下水道局の職員はその全員が,岡山市が下水道の排水人口について建設省の定めた基準に従わない水増しされた数値を公に用いていることを知っていたはずである。

(2)公共施設状況調査において,下水道の排水人口の数値を記載した調査
表を提出するのは,下水道局総務課長の決裁事項であるが,その決裁に あたっては同課の課長補佐や係長の稟議がなされ,さらに調整課(計画 課)との合議が行われる例であった。
U 下水道局調整課(計画課)が,公共施設状況調査で報告する数値が普通交付税と関連があることを知らなかったということがありえないことは,前述のとおりである。
 さらに,下水道局総務課においても,ST記載の理由により,公共施設状況調査において報告されている数値(すなわち,地方交付税算定の基礎とされる数値)が水増しされていることを知らなかったということはありえない。
V 平成3年12月24日に行われた岡山市議会本会議では,議員から,旭西処理区においては公表されている下水道処理人口の中に約10万人の昼間人口が含まれていることが指摘された。また平成4年6月12日行われた同市議会建設委員会においても,同趣旨の指摘が行われた。市議会本会議には市長,助役,各局局長らが全て臨席するのが常であるから,少なくともこの時点において,これら市職員が,岡山市の公表している下水
道処理人口の数値が大幅に水増しされていることを知っていたことは明らかである。

W 平成11年,9月,○○下水道局長は,岡山市議会に対して,2年前の着任早々の時点で下水道処理人口の数値に水増しがあることに気づいた旨を言明した。同局長が着任早々に気づくほどのことであってみれば,同人以前の局長・部課長らの下水道局の幹部職員らも,このことを熟知していたであろうことは明らかである。

X 下水道などの公共施設の状況が地方交付税と関係があるということは地方財政のイロハであり,いやしくも市の幹部職員ともあろう者がその  ことを知らないということ自体,全く信用できないことである。

Y 市内部では定期的に人事の移動が行われており,下水道局計画課と同局総務課の役職を歴任した者,あるいは下水道局と財政局財政課の役職を歴任した者が,課長補佐以上に限っても,4名存在する。(氏名・役職を列挙)
 これらの者は,岡山市が公表している下水道の処理人口の数値に偽りがあること,岡山市が「水増し」された処理人口に基づいて普通交付税を過剰に受領していることを,当然に知っていたはずである。Z Yの状況にもかかわらず,下水道局総務課や財政局財政課において,公共施設状況調査あるいは基準財政需要額の算定基礎数値の報告にあたって,下水道局計画課・調整課の報告に一度も疑義が提出された形跡はない。してみれば,下水道局総務課や財政局財政課においても,岡山市の下水道の排水人口の数値に水増しがあり,その水増しされた数値をもとにして普通交付税の算定・交付がなされているということを,従前から熟知していたことは明らかである。

[ 財政局財政課が所管する,基準財政需要額の算定基礎となる数値の報告は,財政局長の決裁事項であり,岡山県による検収の事前あるいは事後において,財政局長の決裁がなされている。 しかも,これは以前には市長の決裁事項となっており,昭和45年及び51年には市長による決裁がなされている(なお平成7年には助役もこれを閲覧している。)。

9.以上の状況証拠に徴すれば,岡山市役所内部においては,下水道の排水人口の水増しが行われるようになった当初から,市長・助役以下,財政局・下水道局のほとんど全職員がその事実を知っていたことは明白である。

10. 岡山市長は,岡山市の財産である前記損害賠償請求権の行使を怠っている。請求人らが所属する市民団体「市民オンブズマンおかやま」は,岡山市長に対して,平成11年9月27日及び11月4日の二度にわたり,事実の究明と,責任を負うべき者に対する損害賠償請求権の行使をするよう申入をし,さらに平成12年5月19日には質問書を提出したが,岡山市長は現在に至るまで事実調査や請求権の行使に着手した形跡はなく,質問書は黙殺されたままである。
 このまま請求権を行使せずに放置すれば,これら債権については,民法所定の20年の除籍期間が逐次到来するし,平成14年9月16日を経過すれば岡山市が損害を知ったときから3年の時効期間が徒過するので,岡山市が損害を回復することは不可能となる。

11. 以上の次第なので,監査委員におかれては,速やかに岡山市長に対し,財産権の行使の懈怠をやめ,請求権を行使するよう勧告せられたい。

平成12年7月17日

岡山市監査委員 殿