野曽君男「にくまれぐち」

口上

そもそも法律というものは,日本語のようで日本語でない,たいがい翻訳がいるような言語で書いてあります。おまけに,それをコーゲキする人たちの使う言語からして,すでに日本語とはいえないのがふつうです。

さて,いま国会にかかっている国の情報公開法案(出たんですよ,知ってましたか?)。これはまさしく法律であり,それをどうとかこうとか言っている人たちもおおむね法律屋であり,ということは書いてあること言ってることはいいかげんチンプンカンプンで,あーもう好いたようにせい。なんてことを言ってはいけません。少なくとも,オンブズマンは言ってはいけません。ということで,この法案のいいところまずいところを,日本語でもって紹介します。

第1回は,--手数料ー

         

本題に入る前にちょっとお断りをしておきますと,この法案は,まあまあいい線をいっていると,いえないこともありません。どこがどうだと言ってると長くなりますのでやめますが,かの岡山県条例・・・まぎれもなく全国最悪の・・・などは本来ソバにもウドンにも寄れないほどマシな法案です。

しかし,「本来」と断わらなきゃいけないところがつらい。なぜなら,県条例の一番よくないところがそっくりそのまま入っているからです。それがこの「手数料」です。

法案は「手数料をとる」とはっきり言っています。「実費の範囲内でとる」と。じゃ一体いくらとるかは,「政令にまかせる」と言っています。

実費の範囲内ならいいじゃないか,といいたいところでしょうが,お立会い,ここが曲者。政府は国会で答弁していわく,「実費には,制度を施行するための,物的・人的コストを含む」と。

つまり,文書・情報を整理整頓するためのコストやら,それを担当する職員の人件費やら,不服審査会を作るための費用やら何やら(早い話が出張旅費や食糧費まで)実費のうちだと。でもって,情報公開を請求する人間は,他の人間が見ないものまで見ることになるんだから,そのテの経費を分担するのがアタ
リマエなのだと。

この考え方は,実は,岡山県条例の考え方とまるきり一緒です。で,そういう経費まで「実費」のうちに入ってしまうのだから,実際問題としていくらとられることになるのか,まるで見当がつかない。その見当がつかないところを,全部政令にまかせてしまう,つまり政府が勝手に決められるようにしてしまう。これはもう,実際には何の保障もない,お役所のフリーハンドのシステムです。

さらに,まだあと二つ,悪いことがあります。一つは,公益目的の請求・・・オンブズマンがやるような請求・・・あっても,手数料の値引きはしてくれない。これは岡山県条例と同じ。

もう一つ。書類を見せるときだけでなく,見せろと請求するときにも,手数料をとる。これはさすがの岡山県条例にもない,それどころかどこの条例にもない,絶対的新機軸です。

要するに,手数料としていくら取り立てるかは,このままですと,官僚の胸先三寸。これで使い物になるシステムになるかどうか?

それだけじゃなくて,この法案がそのまま通過してしまうと,今まで手数料をとっていない全国の大多数の自治体・・・岡山市もそうです・・・がすっかり調子こいてしまって,われもわれもと手数料を取りはじめるんじゃない。下手うつと,全国のオンブズマンはどこもかしこも商売あがったりにならないか,まさに気が気じゃいられない問題です。お待たせしました,ザンゲ後の会報第2弾です。ホントをいうともっと遅くなりそうだったのですが,Aお姉様が,♪あアあの顔であの声で,脅迫,もとい,すごく正当な要求をなさるので,招請としても○○を前にした××のように頑張った次第であります。(伏せ字の部分は各位想像を逞しゅうしてご判断下さい。)

この会報は,とっくの昔になんべんも皆様に届いてなけりゃならんかったはずのもので,それがなんで今頃になってであるかというと・・・あの,その,えー,ごめんなさい。
これからは誠心誠意,心をいれかえて,真人間になってがんばりますので,どうかカンベンして下さい。

市議会の交際費の不服申立,4月24日に審査会の答申が出ました。ところが,全然出てこない。生命もし,申入れもし,なおかつ6月が過ぎてもまだ出さない。怒るで,ほんま。

市議会は まさきくてあるか 答申の
あまきとも言わず しぶきとも言わず

6月12日付で,東部クリーンセンター関係の不服申立・・・廃棄物焼却炉の型式を決めた審議会の議事録を請求したら,全面拒否をくらってしまったヤツ・・・に対する岡山市の弁明書が届きました。不服申立したのは去年の9月8日です。なんと9か月!おまけに,実質中身は5〜6行!なめとんのか,岡山市。

秋すぎて冬すぎて春すぎて 夏でたるらし うろたえの
子供だましなり 市の弁明書

東部クリーンセンターの口頭意見陳述の前日に(わざわざ前日に),岡山市と不服審査会とに,「なんで不服立してから弁明書が出るまで9か月もかかるのか」ということをメインにした,皮肉たらたらの申入書を出しました。効果てきめん。意見陳述の席上,審査委員長自らまず弁明をされるという異例の進行でありました。教訓。やっぱしお役所は書類にして出さなきゃ。申入れ事項(具体的に5項目)に対してどれほど真面目に考えてくれるのか,気を抜かずに監視を続けましょう。

やっと出ました,市議会の,交際費伝票の開示決定と,準市議会葬の内規の廃止の決定。開示決定は答申から90日以上待たされ,内規の廃止は答申から,はて,1年くらいたったかしら?うんざりしますが,この種のことには手遅れということはない。じわじわ,ねちねち続けましょう。

法律語じゃないふつうの日本語で説明する情報公開法案総まくり
今回が第2 回目です。本日のテーマは


          −−裁判管轄−−

のっけからわけのわからない四文字熟語でまことに恐縮です。「サイバンカンカツ」と読みます。なんであるかというと,どこの裁判所でサイバンをするか,ということであります。

それのどこが問題であるか。

仮に岡山県に住むあなたが,食品添加物のことが気になって,厚生省か農林省かに情報公開請求をしたとしましょう。そうしたら大臣の名前で拒否決定をくらったとしましょう。コノヤロー裁判でほえづらかかせてやる,と決心したとしましょう。どこの裁判所で?岡山。ブー,不正解です。正解は,東京地方裁判所。

東京地方裁判所?待てこら。何が悲しゅうて,岡山県人の自分がのこのこ東京まで行って裁判してもらわんならんのじゃ。大臣の方から出てこんかい。お前らそのために税金から給料貰うとるんと違うんかい。

ということが家内わけです,この法案では。行政事件訴訟法という法律がありまして,情報公開関係のサイバンはこの法律に従ってやることになります。その法律にいわく・・・日本語に翻訳して言いますと・・・行政事件の裁判は,処分をした行政庁の所在地の地方裁判所に起こしなさい,と。では,「処分をした行政庁」とは何か。情報公開の場合,「その情報は出せない」と言って断ってきたヤツ,ということです。○○大臣は東京におります。
(この場合,選挙区とか住民票とかは考えない。)従って,サイバンは東京地方裁判所に起こさなければならない。

ちょっと待て,と思ったあなた,あなたはセンスがよろしい。そんなんだったら,地方に住んでる人間は滅多なことでは裁判ができんじゃないか。情報公開の裁判は,公開請求した人間のいるところの裁判所に起こせる,と決めといたらいいじゃないか。ピンポン,正解です。要するに,これからできる情報公開法に,サイバンカンカツについての例外規定を入れておけばいいのです。

ところが,悪いことに,政府が出した法案には,その例外規定が入っていない,うっかりして入れ忘れた,なんてものではありません。考えた(ということになっている)その結果,わざと入れないことにしているのです。ま,その気持ちもわからんわけじゃない。情報公開は,拒否されたヤツがばんばん裁判を起こしてくる,というのがいまや常識です。起こされるたびに,今日は札幌,明日は沖縄,となったらかなわん。全部,東京でやることにしてしまえば,そうそう裁判も起きないだろう,ってか。あんたは賢い。

しかし,しかしですよ。この情報公開法というものは,役人の都合を考えて作る,というものとは,ホンシツ的に違うはずです。国民の権利です。これは,いままでナイガシロにされていた国民の権利を,本来の姿に取り戻す法律のはずです。それが東京地方裁判所?なめとんのか,おっさん。ええかげんにせん
と,こらえりゃせんぞ,こら。ということです,早い話が。

最後に,衝撃的な話を。大阪のオンブズマンは,ご苦労なことに,ある裁判をモデルにして,東京で裁判を同じようにやったら実費がどれくらいかさむかを試算しました。大体予想はつくとは思いますが,ウン百万円という数字が出たそうです。これは他人事ではない。断じて他人事ではないのです。

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光成弁護士による
情報公開法案総まくり3
 法律語じゃないふつうの日本語で説明する情報公開法案総まくり、第3回目です。本日のテーマは、−任意提供情報−
 
今回は、なんと漢字6文字熟語です。ニンイテイキョウジョウホウとは何ぞや。法案の文章をできるだけ日本語に逐語訳して言うと、「法人などが、お役所から要請されて、公開しないという条件で任意に提供された情報で、その法人などの『通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの』は、請求があっても公開しなくてよい。」
 これじゃまだ全然日本語じゃない?おおせのとおりです。なにしろ、『』の中身は法案の文章そのままですから。もっとかみくだいていうと、こうです。「お役所から情報をくれと言ってこられて、会社がデータをわたしてあげることがあるじゃないですか。そういうデータの中には、会社がふだん公開してないヤツとかがあるわけじゃないですか。で、そういうヤツを、これは役所に請求があっても一般に公開しないで下さいよって、条件つきで渡してもらったような場合は、公開請求があっても出さなくていいでしょ?なにせ、役所としたら、それ出しちまうと、その会社のシンライを裏切ることになっちゃうんですから‥‥。」
 
 こう言われて、うんそりゃごもっともと思った方、あなたは甘い。なんで甘いか?甘い理由その1。法案の中には、「会社やなんかのデータで、公開したらその会社の『正当な利益』が被害にあっちまうようなヤツは、出さんでよろしい」という、別の条文があるのです。ということは、公開したって会社に何の不都合もないようなデータでも、「公開しないで」と条件さえついてりゃ出さなくてよろしい、となるわけです。そんなんアリか?
 甘い理由その2。アンダーラインをひいたところ。これが特に悪い。ごくごく普通に読むと『その会社でふつう公開していない』というだけで、「公開しないで」という条件をつけるだけの合理的理由がある、というように読めます。ということは、ふつう会社が表に出してないデータなら、「出さないで」という条件をつけさえすりゃ、公開して不都合があろうがなかろうが、全部かくしちゃってかまわない、と。
 これだけじゃ、まだ何が何やらわからない?ごもっともです。実例を出しましょう。岡山市内には漁協が8ケか9ケかあります。中にはどうもペーパー漁協みたいなのもあるクサいのですが、どの漁協も補助金だけはちゃんともらっています。でもって、それぞれの漁協別の漁獲高は公表されていません。岡山市の漁協全部の総漁獲高だけが公表されています。

 この補助金があやしいんじゃないか、ということで、最近、中国四国農政局(農林省の出先機関です)に、各漁協ごとの漁獲高を教えてくれ、と、弁護士会経由で要求してみました。公開してくれてもよさそうなものです。漁師さんひとりひとりのフトコロ具合を出せといってるんじゃないんだから。ところが全面拒絶。理由。各漁協のOKがもらえない。ええ、そりゃ、公開しても漁協に不都合があるわけじゃあるまいがと言われるのはわかります。わかりますがふつう公表してないデータなんで、それぞれのOKがとれんことには‥‥。ふざけやがって、と地団駄ふみましたが、情報公開法がまだない悲しさ、手のつけようがありませんでした。ことは、漁協の漁獲高だけですみません。「行政指導」の国であるわがクニには、この種の行政情報はいっぱいあるはずです。例えば‥‥汚染物質の排出データ、薬品の副作用データ、製造物の欠陥クレームデータ‥‥「法律があったらなあ‥‥。」
 しかし、しかし。さきほどのニンイテイキョウジョウホウ。法律ができたって、この条文がそのまま残ってしまうと、この種のデータは全然出てこない、ということになるんではないか?論より証拠、農政局は、拒否回答をする前にちゃんと総務庁‥‥情報公開法を担当している当のお役所です‥‥のご意見を聞いて、「出さんでよろしい」というお墨付きをもらっているのです‥‥。

情報公開法案総まくり 番外編
 今回は、内容の解説じゃなく、アサヒやあふ(判らないだろうな、このギャグ)、じゃない、国会情勢についてひとくさり。
 野党全会派は、9月に、政府法案に対する12項目の共同修正要求を出しました。自民党からはアッという間に実質ゼロ回答。野党は9/29に、情報公開法制定を求めている諸団体(オンブズマン、日弁連、その他)を集めて緊急会議を開きました。要するに、「オレたち、やってみたんだけど、自民党渋くて、これくらいしか取れないの。もうこれくらいでいい?」という瀬踏みです。諸団体きわめて強硬、議員さんたち引っ込みつかず。
 その後あれこれのあげく、@自民党からはちょっとだけ、ホントにちょっとだけ色をつけた妥協案が出てきました。いわく、手数料について「そんなに高くしないよ」という(気休めぎみの)文句を入れる。4年後に見直す約束を入れる。あと、「附帯決議」を何点かつける。そして、裁判の地方管轄は絶対にダメ。A法案は結局「継続審議」(つまり次の国会に持ち越し)になりました。
 さて、実際問題として、野党の議員さんたちはくたびれてきているように見えます。頑張ってみたって票になるわけじゃなし、もうこれくらいで釈放してくれねえかなァ、てな具合に感じられます。どれほど大事な法案かホントに判ってくれとるのだろうか?私のヒガミならいいんですが‥‥ピッタリくるセリフをご紹介します。久坂玄瑞です。
「ついに諸侯たのむに足らず、公卿たのむに足りず、草莽の志士糾合義挙のほかには、とても策これなきこと‥‥」

情報公開法案総まくり 番外編2
 待ちに待った情報公開法案が、(なんと、全政党一致で修正されて)やっと衆議院を通過しました。
 どこが修正されたか?いろいろ細々とあるのですが、最大の目玉は、「8か所の裁判所で裁判ができるようになった」ということです。8か所とは、東京・大阪・名古屋・札幌・仙台・広島・高松・福岡。つまり、岡山の私が公開請求したら○○大臣が拒否してきたという場合、東京まで行かなくても、広島で裁判できる、ということです。(高松の方がよっぽど便利がいいのですが、それはダメ)
 ま、もとの案(東京でないとダメだった)よりは大前進ですが、もう一声なんとかならんのかなあ。これじゃ沖縄とか金沢の人なんか、大差ないんですよね。
 もう一つの大問題、手数料は、「利用しやすい料金にする」という、気休めみたいな修正が入っただけ。いったいどれくらいとられることになるのか、いろんな情報やら観測やらが乱れ飛んでいます。(実は日弁連の中でも楽観説と悲観説があるくらいで、正味のはなし、見当がつきません。)
 なにしろ「全政党一致」ですから、この先大きな修正はとれそうにありません。たぶん3月ころに参議院を通過して法律ができて、2年以内に施行されます。2年?そうです、2年以内なんです!全くナメてます。何が悲しゅうてこの先2年も待たなきゃならんのか ‥‥ま、いいでしょう、法律がないのにくらべりゃ天地の差です。
せいぜい手グスネをひいて待つとしようじゃありませんか。